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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)630号 判決

控訴人

樋口澄

控訴人

樋口肇子

右両名訴訟代理人

藤原昇

被控訴人

日本住宅公団

右代表者総裁

南部哲也

同理事(大阪支所長)

青樹英次

右訴訟代理人

辻中一二三

外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人樋口澄に対し金三万二八三五円、控訴人樋口肇子に対し金七万八三〇〇円、及びそれぞれ右各金員に対する昭和四四年一二月四日以降完済に至るまで年五分の割分による金員を支払え。

控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを四分し、その一を控訴人らの、その三を被控訴人の各負担とする。

この判決は控訴人ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人樋口澄に対し金四万七九四五円、控訴人樋口肇子に対し金八万八三〇〇円、及びそれぞれ右各金員に対する昭和四四年一二月四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、並びに仮執行の宣言を求め(天井ひび割れの補修を求める請求は、これを取下げた)、被控訴人代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一(ただし天井のひび割れ補修請求に関する部分を除く)であるから、これをここに引用する。

(控訴人らの主張)

本件事故は、被控訴人公団所有に係るいわゆる団地建物(五階建)を五階から一階まで縦に貫通している排水本管(以下本件排水本管という)の二階と三階の中間部分が詰まつたため、上階層からの排水が三階に逆流し、それが控訴人ら居住部分の二階の天井から漏水したのであるが、本件排水本管は、被控訴人公団の管理下にある土地の工作物に該当し、右のような漏水事故を生じたのは、被控訴人公団において排水本管の設置または保存に瑕疵があつたものであるから、民法第七一七条第一項の規定により、被控訴人公団は、控訴人らの蒙つた損害に対し、無過失損害賠償責任を負うべきである。すなわち、

(一)  本件排水本管の太さは、口径四センチから五センチまでと推定されるが、被控訴人公団では、設置当時(約一〇数年前)においては、この程度の太さで約二〇年間は清掃しないでもつものと考えていたようである。しかし、それが約八、九年位で各団地で排水の詰まりを訴えるようになつたのであるが、その原因は、食生活等の改善にともなう脂肪類等が排水管に附着してとれなくなつているためである。したがつて、基本的には、まず、本件排水本管の太さにおいて設置の誤りがあつたといわなければならない。

(二)  被控訴人公団は、本件排水本管を毎年定期的に清掃したことはなく、昭和四〇年一二月のカンツール工法による清掃が初めてである。ところで、カンツール工法による清掃は、ワイヤーの先にらせん状の鉄のかたまりを結びつけて、ワイヤーをねじりながら、その先のらせん状の鉄片を脂肪の凝固の中を通してゆくのであるが、らせん状のものは、管の中を通り抜けるには便利で力もいらないが、水あかなどを押し出すには不完全であるところから、単に一回位カンツールしただけでは、かえつて脂肪をけばだたせて、水はけを悪くすることがあるほどである(現在では、圧搾空気で水あかを押し出す圧力式清掃法が一番合理的な方法とされている)。したがつて、カンツール工法による清掃は不完全な場合が多く、しかも被控訴人公団が、昭和四〇年一二月に右方法による清掃をしただけでは、本件排水本管の保存についてもまた瑕疵があつたものというべきである。

(被控訴人の主張)

控訴人ら主張のように、本件排水本管が二階と三階の間で詰まり、排水が三階の方へ逆流して控訴人ら居住部分の三階の天井から漏水したこと、本件排水本管の設置、保存の責任が被控訴人公団にあることは認める。しかし、被控訴人公団が民法第七一七条第一項の規定により損害賠償責任を負うべきいわれはない。すなわち、

(一)  本件排水本管は元来、土地の工作物ではない。

(二)  仮に本件排水本管が土地の工作物に当るとしても、本件排水本管の太さは、五階から三階の枝管に接続する箇所までは口径一インチ半、同箇所から一階の枝管に接続する箇所までは口径二インチ、同箇所より下は口径二インチ半であり、台所の流し台から排水本管に接続する枝管の口径は一インチ半であるところ、これは社団法人空気調和・衛生工学会の資料を基礎にした学問上の根拠により設計施工されたものである。すなわち、口径一インチ半の枝管の排水単位は2(排水単位1は、一分間に7.5米ガロンの水が流されるということであり、7.5米ガロンは28.35リットル)であるのに対し、排水本管においては、口径一インチ半で排水単位8、口径二インチで排水単位24、口径二インチ半で排水単位38であるから(乙第四号証参照)、本件排子本管のうち、五階から三階の枝管に接続する箇所までは、二倍の排水許容量(五階と四階の各枝管の排水単位の合計4に対し、口径一インチ半の排水本管の排水単位8)、三階の枝管に接続する箇所から一階の枝管に接続する箇所までは、三倍の排水許容量(五階から二階までの各枝管の排水単位の合計8に対し、口径二インチの排水本管の排水単位24)、一階の枝管に接続する箇所より下は、約四倍の排水許容量(五階から一階までの各枝管の排水単位の合計10に対し、口径二インチ半の排水本管の排水単位38)があることになる。したがつて、本件排水本管が細過ぎるということはない。

(三)  また、本件排水本管には破裂、腐飾等をきたすようなそれ自体の保存には何らの瑕疵がなかつたものである。

(四)  本件排水本管に水あかが附着したため本件事故が生じたとの事実を否認する。全国に本件建物と同一様式の賃貸住宅を所有している被控訴人公団において、排水本管に水あかが附着したため溢水したという前例は全く存在しないし、排水管が詰まるのは、全部固形物、或いはそれに近い物が流れ込んで詰まつたというのが事実である。そして、本件の場合もかようなことにもとづく溢水と考えるのが経験上の常識であり、突如として溢水という事故が発生したのは、永年の間に水あかがたまつて排水管が少しづつ細くなり、流下状況が徐々に悪くなつてついに詰まつたのとは違つた現象である。

(五)  なお、排水管の清掃の義務は被控訴人公団になく、右清掃は入居者の権限である。そして、入居者が管理組合を結成し、その組合が業者に清掃を請負わせている場合と公団が入居者から費用の支払を得て業者に清掃を請負わせている場合とがあるところ、本件団地の場合は後者に該当するものであつて、本件排水本管の清掃は、被控訴人公団の保存行為としての義務に属するものではない。

(証拠関係)〈略〉

理由

一控訴人樋口澄は、昭和三四年秋控訴人肇子と結婚して以来、被控訴人公団からその所有の大阪府枚方市宮ノ坂二丁目所在日本住宅公団中宮第一団地第七棟(鉄筋コンクリート造五階建、以下本件団地建物という)の第二〇六号室(二階)を賃借して居住していることは、当事者間に争いがない。

二昭和四一年四月一六日午後一時過頃、右第二〇六号室で天井から漏水があつたことは、当事者間に争いがなく、〈証拠〉を綜合すると、右第二〇六号室は、六畳、四畳半の二間と台所、風呂場等があるいわゆる2DKであるが、当日右時刻頃控訴人肇子が在宅していたところ、六畳間の天井の南西角ひび割れ部分から、汚水がポタポタ落ち始め、それが次第に激しくなつて、下に受けていた鍋、釜、洗濯機なども始終漏水を捨てに行かなければすぐに一杯になつてしまうような状態となつた。そのうち四畳半の間の西側押入れの上にある天井からも漏水し始め、控訴人肇子は公団に勤務する人に頼んで真上の三階の室(その居住者は不在であつた)の水道の元栓を締めてもらつたが、漏水は依然として止らず、午後三時頃から同八時頃までの間が最も激しかつた。そして右三階の室の居住者が帰宅した午後九時頃になつて、右三階の室の流し台から水があふれて床に流れ落ちていることが発見され、漏水は午後一一時頃に至つて漸く止つた。以上の事実を認めることができる(以下本件漏水事故という)。

三そして〈証拠〉を綜合すると、本件団地建物において、各階の台所の流しで炊事等に使用した汚水は、野菜等の屑止め装置のある流し口から排水枝管を通つて、五階から一階までを縦に貫通している排水本管(以下本件排水本管という)に入り、本件排水本管を流下して下水管に排出されるようになつていたこと、したがつて五階から一階までの五戸の流し口からの排水が一本の排水本管を通るようになつていたことが認められる。ところで、本件漏水事故は、本件排水本管の二階と三階の中間部分が詰まつたため、三階以上からの排水が三階に逆流し、それが三階の流し口からあふれ出て、二階の天井から漏水するに至つたものであることは、当事者間に争いがない。

四そこで、本件漏水事故につき、被控訴人公団が民法第七一七条第一項の規定により損害賠償の責に任ずべきか否かにつき以下判断する。

(一)  〈証拠〉によれば、本件排水本管は、本件団地建物内に附属して設置され、五階から一階まで縦に貫通し、前記三に認定したように、各階の各室の台所の流しと排水枝管をもつて接続し、下部は横走り排水管を経て下水管に接続していること明らかであり、本件排水本管は、本件団地建物の一部をなす設備であつて、民法第七一七条第一項にいわゆる土地の工作物に該当するものということができる。

そして、本件排水本管は、排水設備として本件団地建物の各室の賃借人らのために設置されているものであるけれども、前掲〈証拠〉により認められるその設置状況から見て、本件団地建物の各室の賃借人らがこれを事実上支配し共同で占有しているものとは認め難く(原本の存在及び成立に争いのない乙第五号証によつても、賃貸借の目的物件の一部をなすものとは見られない)、本件排水本管の設置、保存の責任が被控訴人公団にあることは、被控訴人公団の認めるところであるから、被控訴人公団がこれを占有しているものと認めるのが相当である。〈証拠判断省略〉。したがつて、被控訴人公団は、もし本件排水本管の設置または保存に瑕疵があつたことにより他人に損害を与えたとすれば、その所有者として民法第七一七条第一項但書により、いわゆる無過失損害賠償責任を免れることはできないというべきである。

(二)  そこでまず、本件排水本管の設置に瑕疵があつたかどうかにつき検討するに、〈証拠〉を綜合すると、本件団地建物は、昭和三一、二年頃被控訴人公団によつて建設されたものであるところ、本件排水本管の口径は、五階から三階の枝管に接続する箇所までは一インチ半(以下(イ)部分という)、同箇所から一階の枝管に接続する箇所までは二インチ(以下(ロ)部分という)、同箇所より下は二インチ半(以下(ハ)部分という)であり、各階の台所の流し口から排水本管に接続する各枝管の口径は、いずれも一インチ半であること、右は社団法人空気調和・衛生工学会の資料を基礎として設計施工されたものであること、右学会の資料によれば、口径一インチ半の枝管の実用排水単位は、2であり(実用排水単位1とは、一分間に7.5米ガロンの水が流されるということであつて、7.5米ガロンは28.35リットル)、一般に排水本管においては、口径一インチ半で実用排水単位8、口径二インチで実用排水単位24、口径二インチ半で実用排水単位38とされていること(乙第四号証参照)、したがつて、本件排水本管のうち(イ)部分は、二倍の排水許容量(五階と四階の各枝管の排水単位合計4に対し、口径一インチ半の排水本管の排水単位8)、(ロ)部分は、三倍の排水許容量(五階から二階までの各枝管の排水単位合計8に対し、口径二インチの排水本管の排水単位24)、(ハ)部分は、約四倍の排水許容量(五階から一階までの各枝管の排水単位合計10に対し、口径二インチ半の排水本管の排水単位38)があることになることを認めることができる。

右認定の事実によれば、被控訴人公団においては、本件団地建物建設に際し、排水本管の口径については、前記学会の資料にもとづき、二倍以上の排水許容量があるように設計施行したこと明らかであり、被控訴人公団は、本件排水本管の設置に瑕疵があつたとは見られない。

もつとも、〈証拠〉に徴すれば、被控訴人公団は、昭和三八年度以降に建設した公団建物については、排水本管の口径を五階から二階まで二インチとなし、また昭和四六年以降建設の分については、五階から下まで通じて二インチ半としたことが窺われるけれども、そのことから直ちに本件排水本管の口径が細きに失したとは断定し難いし、また後に掲げる原審における鑑定人菊沢俊夫の鑑定の結果を考慮に容れても、未ださきの認定を動かすことはできない。

(三)  そこで、進んで本件排水本管の保存に瑕疵があつたかどうかにつき検討する。

原審における鑑定人菊沢俊夫の鑑定の結果によれば、本件排水本管は、鉄管である性質上、水あか、さびが附着して排水が不能または困難になることがあり、特に最近の食生活においては、油脂、脂肪類の含まれた台所排水が多く流されるため、この固形化した油脂等が水あか、さび以上に排水を不能または困難にするものであること、したがつて、定期的に排水管の清掃および手入れが必要であり、清掃、手入れをしなければ、設置してから一〇年位経過すれば、排水不能となること(清掃、手入れをすれば、異物の投入、流入のない限り耐用年数は二〇年であること)を認めることができる。

ところで〈証拠〉を綜合すると、

(1)  本件排水本管については、被控訴人公団は、後記のように昭和四〇年一二月清掃工事をするまで、本件団地建物建設以来一度も清掃しなかつたこと、

(2)  本件団地建物(中宮第一団地)と同様に建設時期の古い中宮第二団地においては、居住者の組織する自治会代表者が、被控訴人公団大阪支所香里(後に枚方)営業所長に対し、昭和三七、八年頃から排水管の流れが悪いことにつきしばしば苦情を訴え、被控訴人公団の費用で清掃して貰いたい旨強く申入れていたこと、これに対し被控訴人公団側は、排水管の清掃費用は、居住者らが個人で負担すべきであるとして、容易に右申入れに応じようとしなかつたが、ようやく昭和四〇年九月より、各居住者が負担する共益費で排水管の清掃を実施することになつたこと(前掲乙第五号証の賃貸借契約書第七条によれば、排水管清掃費用は、共益費の中に含まれていなかつた)、

(3)  かくて本件団地建物の本件排水本管についても、被控訴人公団は、訴外平和工務店(代表者藤田正雄)に請負わせて、昭和四〇年一二月中旬頃清掃工事を実施させたこと、その清掃方法は、カンツール工法といわれるもので、放水しながら自動式カンツール(清掃機)を回転させ、三メートル程度ワイヤーを通して排水管内を清掃する方法であり(乙第一号証中の仕様書参照)、一戸当り五分程度で終つたこと、

(4)  排水管の清掃方法としては、右カンツール方法の外に、薬品による方法、ジェットクリーナーによる方法、ウォーター・ラム方式といわれる方法などがあり、いずれも一長一短があるものの、右カンツール工法は、費用は低廉であるが、比較的原始的な方法であること(現在では、カンツール工法は余り用いられず、被控訴人公団においても、ウォーター・ラム方式を採用している)、

(5)  本件排水本管について前記清掃工事実施後は、かえつて水はけが悪くなつたこと、それは、右カンツール工法による清掃を一回位行つただけでは、排水管の内側にかんてん状になつて附着している水あかを丁度かぎで引つかけたような恰好になり、水あかを落してしまうことができず、必ずしも水はけが良くならないからであること、本件漏水事故の翌日業者が本件排水本管の清掃をしたところ、ゼラチン状になつた水あかが排水管の丸い形のまま出て来たこと、そして何らかの固形物が本件排水本管の中途で詰まつていた形跡はなかつたこと、

以上の事実を肯認することができ、〈証拠〉中右認定に牴触する部分は、措信し難い。

右各事実によれば、本件排水本管は、定期的に清掃をしなければ、一〇年位で排水不能になるものであるにもかかわらず、被控訴人公団は、昭和三一、二年頃本件団地建物を建設して以来、約八、九年間本件排水本管を一度も清掃したことがなく、昭和四〇年一二月に至り、カンツール工法による清掃をしたが、その清掃は甚だ不充分なものであつたこと明らかである。

ところで、民法第七一七条第一項にいわゆる「土地の工作物の保存に瑕疵がある」とは、土地の工作物が維持、管理されている間に、その物が本来具えているべき性質を欠くに至つたことを指すものであり、本件排水本管についていえば、排水設備として通常有すべき機能が十分でなくなることをいうと解するのが相当であるところ、本件漏水事故は、前記のように本件排水本管の汚水が逆流して生じたものである以上、本件排水本管の保存に瑕疵があつたものといわざるを得ない。

そうだとすると、本件排水本管の占有者であり、所有者である被控訴人公団は、所有者として、本件漏水事故により後に認定するような損害を蒙つた控訴人両名に対し、損害賠償をなすべき責任があるといわなければならない。この場合被控訴人公団側に過失の存在を必要としないことはいうまでもなく、また前叙認定に照し本件漏水事故が不可抗力であつたとは到底認め難い。そして当時被控訴人公団に排水管清掃費用の予算措置がなかつたこと、居住者らが負担するいわゆる共益費も右費用を予定していなつたことなどは、被控訴人公団の右損害賠償責任を免れさせる理由とはならない。

五よつて、控訴人らの損害額につき検討する。

(一)  控訴人澄の分

(1)  〈証拠〉を綜合すると、控訴人澄は本件漏水事故により、冠水した物の処理等のため(1)ふとんの打直し代金四〇八五円、(2)毛布等のクリーニング代金二七五〇円、(3)手伝い人への謝礼金一万六〇〇〇円(一日金二〇〇〇円の割合で八日分)合計金二万二八三五円の支出を余儀なくされたことが認められる。しかし控訴人澄の主張する他の支出を的確に認めるに足る証拠はない。

(2)  〈証拠〉によれば、控訴人澄は、同志社大学を卒業して立命館大学生活協同組合に勤務し、当時業務副部長であつたこと、その職務上毎年四月一〇日前後は一年中最も多忙な時期であるが、本件漏水事故のため一週間欠勤のやむなきに至つたことが認められる。そして、右事実に本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、本件漏水事故により同控訴人の蒙つた精神上の苦痛に対する慰藉料は、金一万円をもつて相当と認める。

(二)  控訴人肇子の分

(1)  〈証拠〉によれば、控訴人肇子は、本件漏水事故による冠水のため、その所有の(1)アルミ洗樋三個(一個金一五〇〇円相当、中古品としての価格、以下同じ)、(2)アルミ鍋四個(一個金七五〇円相当)、(3)台所ボール三個(一個金三五〇円相当)、(4)電気コタツ一個(金七五〇円相当)、(5)レース服二着(二着で金一万九〇〇〇円相当)を使用不能としてしまい、合計金二万八三〇〇円の財産上の損害を蒙つたことを認めることができる。

(2)  〈証拠〉によれば、控訴人肇子は、当時高校の講師をしており、事故当日は一人在室していたのであつたが、午後一時過頃本件漏水が始まつてから同夜一一時頃漏水が止まるまで、懸命にその対応措置を講じ、翌日以降も、室内整理、公団職員との交渉、その他事後処理のため動きまわり、疲労の末神経性下痢状態になつて、二か月後の六月中旬頃には体重も一〇キログラム位減少したことが認められる。そして、右事実に本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、本件漏水事故により同控訴人の蒙つた精神上の苦痛に対する慰藉料は、金五万円をもつて相当と認める。

六以上の認定判断に照せば、被控訴人公団は、控訴人澄に対し前記五の(一)の財産上、精神上の損害賠償として合計金三万二八三五円、控訴人肇子に対し前記五の(二)の財産上、精神上の損害賠償として合計金七万八三〇〇円、及び右各金員に対する本件漏水の日の後である昭和四四年一二月四日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものというべきであり、控訴人らの本訴請求は、右の限度において理由があるが、その余の部分は失当であるといわなければならない。

七そこで、当裁判所の右判断と一部結論を異にする原判決を変更して、控訴人らの本訴請求を前叙認定の限度で認容し、その余の部分を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(浮田茂男 中島誠二 諸富吉嗣)

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